Magic meets magic


序章
出会いはいつの頃だろう −僕が彼らにあったことは、偶然なのか、必然なのか−

「いいかい、これをよーくみているんだよ。」

その人は、指先につけたキャップのようなものを少年に見せた。小学校の家庭科の授業で裁縫をする時に付ける、そうだ指キャップのようなものだった。彼は、そのキャップを右手の中に握ると、指から外した。少年の目は爛々と輝いている。

ふーっと息をかける。彼が右手をゆっくりと開けると、その手の中に確かに握ったはずの指キャップは煙のように消えていた。少年は目をパチクリさせながら、彼の手を、穴があくほど見続けていた。


事の起こりは、学校の教室の中だった。中学生の頃は、何にでも興味を持つのが若者の特権だった。少年は、小学校の頃からためたお年玉で顕微鏡を買い、五年生になるとコンピューターを買うなど、とかく興味を持つものには手を出さないと気が済まない性分だった。

「おい、斎木。これ、知ってるか?」
同級生の木村が、指先に赤い指キャップをつけて近寄ってきた。
「何つけてんだ?」
詰め襟に着られているような少年は、不思議そうな顔をして木村に尋ねた。
「いいか、よく見てろよ」
木村は、指先に付けていたキャップを左手の中に握り込むと、ぎこちない動きで指を抜いた。そして、息を吹きかける。自慢気な顔をしながら、木村が手をゆっくりと開けると、左手の中のキャップは消えてなくなっていた。
「おー、すげえなぁ」
斎木の顔が、気持ち紅潮する。そんな顔を見て、木村はますます息を荒げた。
「なあ、練習したんだよ。シンブルっていって、すんげぇ難しいんだ」
斎木は、木村の顔も見ていなければ、自慢気に話す事も何も聞いていなかった。どこで売っているか以外は。


少年は目をパチクリさせながら、彼の手を、穴があくほど見続けていた。
「これ、シンブルっていうんですよね。」
少年は、デパートの売り場に立つ彼に向かって、そう尋ねた。
「そうだよ、君はマジックをやったことはあるのかい?」
彼は笑顔で私の顔を見返した。それは営業スマイルだったのかもしれない。

「いや、一度もないです。」
「そうしたら、これは練習が必要だから。難しいかもしれないね。」
大人に憧れる少年にとって、彼の一言は気に障った。
「いや、それが良いです。それ下さい。」
少年は、彼の忠告も聞かずにシンブルを買った。彼も忠告をしなかったのかもしれない。
少なくともその時、二人の関係はデパートの売り子と一人の中学一年生の客に過ぎなかった。

ありがとうございました。分からないことがあったら、聞きに来なさい。」
彼は優しくそう言った。少年は、その優しい言葉も耳に入らないほど嬉しそうに家路に就いた。


少年は、中学生だった。何でも試さなきゃ気が済まない性分だった。
いつの日か、あれだけ夢中になっていたシンブルは、どこかへ行ってしまった。
彼のいる、デパートのマジック売り場にもあれっきり行かなかった。
少年にとって、あの瞬間に起きた今までに見た事もない不思議な現象は記憶の片隅に消えていった。

少年−斎木創、彼−柳田昌宏、
4年後、彼らはお互いの記憶がすべて消え去った頃に再び出会う。

柳田昌宏を師と仰ぐ一人のマジシャン、PSYKA(サイカ)が誕生する6年前、
もう、記憶にも残っていない、遠い昔の1ページ。
私は彼に出会った。それは偶然だったのだろうか、それとも必然だったのだろうか、一番古い記憶の中にあるシンブルが物語を奏で始めるには、まだ6年の歳月を待たなければいけなかった。

続く・・・


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