一年先輩の本橋氏は、数年前からマジックに興味を持っていたという。
現在も、その繋がりはよく分かっていないのだが、彼のマジックショーのアシスタントとして、保科(ほしな)と小島という私の同級生であり、友人の二人が参加していた。
いや保科とはクラスメイトで、小島とはそれで知り合ったのかもしれない。
元々、保科のクラスメイトとしての印象は薄かった。あまりクラスメイトと何かをするというタイプではなかった。とはいえ、そういう自分も放送部の毎日であり、昼休みと放課後は部室に居たので、クラスメイトとの付き合いは希薄だった。
そんな保科との繋がりは・・・良く覚えていない。
それが始めてではなかったような気がするが、マジック以外のきっかけも思い出せない。さして大事な部分でもないので割愛しよう。
保科が新しくコインマジックを練習するという事になった。その為にコインを買いに行くと言った。私はその時にイメージしていたのは、コイン商店みたいなところにでも行くのかと思っていたが、保科は、本橋氏が通っていたマジックの専門ショップに行くというのだ。
その時に保科に説明してもらったその店の説明は今でも覚えている。
−基本的にはマジシャンしかこない店で、マジック用の商品を扱っているが、夜になると電気を消して蝋燭の明かりだけになって、喫茶店みたいになるんだって。そうすると多くのマジシャンが集まって色々な話とか聞けるらしい−
その時のさいしょの印象は、こうだった
うさんくさい
そりゃそうだ、まったくもって要点が掴めない。いや、掴めないというよりマジックというキーワードが説明の要所要所の焦点をボカしている。商品売ってて、夜は飲食なのだろう、それは分かる。よく分からないのは蝋燭と、夜な夜な集まるマジシャンということになるのだろうか。
私は保科の買い物に付き合って、その店に伺う事にした。
当時の私はマジックには興味を持っていたものの、自分で何かを買って練習をしよう、という気持ちが、皆無であった。いわば興味本位だったような覚えがある。
その店は、渋谷の東急ハンズ近くの雑居ビルの中にあった。
ありふれた扉を開けると、中は狭そうな空間の中に大きなガラスケースが並んでいる事は覚えている。あとは、そのガラスケースの中に入っているもの・・・まったく何がなんだか分からなかった。
今までの人生の中で見たことの無いようなものだった。用途も見えない。目を凝らせば商品名と説明が書かれていた。
「宙に浮きます」
「一瞬のうちに消えます」
「色が変化します」
「1000円札が10000円札に」
商品も今までに見たことの無い物であれば、
そこに書かれている言葉も今までに考えた事もない様な説明だった。
ようはありえない事である。
私は目を輝かせはしなかったような覚えが残っている。
何故なら、その時は単なる客の連れであり、興味がなかったこと
あくまでも、興味本位で来ただけで、その店が思ったほど妖しくなかったこと
要因は挙げるとキリがない。
そのせいか、記憶も薄いし。鮮烈な印象は残っていない。
残っているのは帰りしな、扉を閉めた時に
カラン
となった、玄関にかけてあった木の看板だけだった。
そこには、「WIZARDS’ INN」と書かれていた。