Magic meets magic


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第九章
転機 −Magic meets magic−

 私自身はウイザードインのメンバーとして毎日、事務所に行っていたのはもう何年も昔の事になる。記憶が曖昧になっているのはきっと年のせいだろう。記憶に間違いがなければ、私がウイザードインとひとつの決別を迎えたのは22歳の頃になる。私はウイザードインを離れ、サラリーマンのようなものになった。

 こうして書くとマジシャンを辞めて、普通の人に戻ったように聞こえなくもないが、実際には戻ったわけではない。自分が何をできるのか?いや、何をしたいのかが迷走していたのだろう。少なくとも私はウイザードインのスタッフでいる事を放棄し、別のステージを選んだのである。仕事はマジックなど何も関係のない縁遠い世界の仕事だった。

 今でも感謝することではあるのだが、気が付けば喧嘩別れとは言わないものの、離れていった私が今もウイザードインに接しているのは、寛大な措置、いや措置というと堅苦しいが、とにかくありがたい事である。ウイザードインを離れてからの私は、それまでには経験しなかった色々な事を学び始めていた。まったく新しい仕事でそれまでの知識は何も役に立たなかった。しかし、身に染み込んでいる経験は確実に私の成長の糧になっていたのである。

 水平思考という考え方がある。

 たとえば、マジックを上手くなるにはマジックの練習をするのがひとつの方法だが、それ以外にも色んなことが上達の要素となりえる。簡単なところでは映画や演劇。これらのもつ観客をひきつける手法はマジックの演技に応用できないものがないわけではない。

 しかし、映画とマジックは同じエンターテイメントという土俵にあったとしても根本で違うものである。だから手法をそのままトレースしても、間違った結果を生む可能性がある。そこに思考を加える事によって、効果は正しい方向に生きていくのである。

 演劇を見ているときに面白いシーンのつなげ方、せりふの言い回し、展開の面白さ。これらはそのままマジックに持ってこようとすれば、話を真似したり、台詞を組み込んだり。。。それらは演劇のために作られたものであって、けっしてマジックのために作られたものではない。だから、応用するのである。 シーンのつなげ方や、展開などの重要な要素をとりだして、そこに独自のアレンジを加えて自分のマジックに活かす。それは芯の部分を取り出すという作業に近いかもしれない。

 水平思考からもずれはじめている。言葉にするのは難しいのだが将棋が強くなるとマジックが上手くなる。・・・信じない人も多いのだが、これも水平思考のなせる業だ。だから、将棋が上手い人がマジックも上手い訳ではない。たとえば将棋は相手の手を読み、それが相手の先手を打つとい事につながっていく。将棋の場合は勝負なのだが、マジックの場合、観客の気持ちを掴むという所作が必要になる場合がある。観客が何を望んでいるのか、何を考えているのか?これを読むのは、将棋のそれにも相通ずる。

 他にもいろんな説明がつくのだが、どれもはっきりしない。なぜはっきりしないかといえば、それは私自身の体が勝手に反応して、そのように処理しているせいだろう。それを言葉に落とし込むには、まだまだ経験も知識も足りないのかもしれない。読まれている方には歯がゆい文章になっているだろう。

 閑話休題、

 私の社会人生活はマジシャン時代に培った経験が大きく影響し、順調な滑り出しを見せた。仕事の多忙さでカードに触れる時間は少なくなってしまったが、そんななかでも時間を作って忘れないようにするだけの努力は続けていた。ウイザードインで行われるマジックの大会にも参加していた。芳しい成績ではなかったような気がするが。まあベスト8どまりだったか・・・ああ、あまり思い出したくない。

 そんな時流の中、数年が過ぎた。秋の話である。 思えば夏、いやその前から話が発生していたかと思う。ウイザードインにとってはとても大きな話であった。実際に決定するまでは、予断の許さない状況ではあったが、話が具体的になるにつれ、にわかにウイザードインも盛り上がったものだ。

 マジックキャッスルジャパンウィーク

 この話は紆余曲折がある。様々な障害や準備などがあり最終的に秋にウイザードインから総勢6名のマジシャンがマジックキャッスルのステージに上がることになった。クロースアップルーム2名、サロン1名、ステージ3名。

 私がクロースアップマジシャンであることは周知の事実であり、私自身もその認識がある。ステージマジックはどうも苦手だ。生来のアドリブ気質、やっつけ仕事好き、その場しのぎ好きの性格は、緻密なセッティングが特に必要とされるステージマジックにはどうも向かない。そもそも手順を覚えたり、台詞を覚えるのは苦手なのだ。これは今でも変わっていない。

 クロースアップマジックに準備がいらないという訳ではない。ただ私自身は経験の積み重ねでアドリブに強くなっただけと言えるかもしれない。しかし、これといったギミックなどを使わない今のスタイルはウイザードインの影響もあるものの、どんな状況にも対処できるフレキシブルさを出すときに、ギミックは時に邪魔になる。 どんな事にも応えられるだけのギミックを用意するというのも手かもしれないのだが、私は荷物を持つのも嫌いなのだ。だから理想は一組のカードとコインが数枚となる。もちろん、実際にはそうならないのだが、少なくともこれだけ持っていればなんとでもなってしまうのもまた事実ではある。そういった素地があって、持ち歩く道具を増やすのはプラスはあれど、マイナスはない。

 そんな気質である私ではあるが、マジックキャッスルでのショーは別だった。そもそも選ばれるかどうかだって怪しい。クロースアップの枠は2つ。私よりも優秀なマジシャンはいくらだっている。もしかしたらサロンかもしれないという覚悟はあった。

 柳田氏が私に伝えた事は、私にとっては予想外だった。いや、今考えると顔面蒼白になったに違いない。
「斎木、ステージやって。」 おいおい・・・言われて最初に思ったのは、そんな事だった。

続く・・・

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