金 23 2月 2007
久しぶりのNMT。ここのところの自分のスタンスを反映した話をひとつ。
いま、私のマジシャンの活動は決して活発ではない。依頼を受けている仕事はあるのだが、その大半をお断りして、スケジュール的余裕と、仕事の内容で選り好みをさせてもらっている。大分偉そうな活動だが、これも今のマジックと自分の距離感を慮っての所業。
そんな中、唯一レギュラーでショーを行っているのが横浜・関内にあるマジックバー「空の詩」になる。足掛け1年半になる長丁場の出演だ。ここでは30分弱のクロースアップマジックのショーを見せている。出演は不定期の金曜日だが、1日4~5回程度のショー。多い時は8回くらいもざらにある。
そのマジックショーにおいて、ここ1年ほど不動のメインマジックの座を誇っているのが、Bro. John Hamman(ブラザー・ジョン・ハーマン)の「ジェミニストーリー」というマジックだ。Hammanは、マジシャンとしては、ハーマンカウントの原案者として知られ、近代マジックに大きな影響を与えた人物の一人である。
さて、ここで「ジェミニストーリー」を知っている方だと、「え?ジェミニストーリーがメインなんですか?」と首を捻る人もいるだろう。このマジックは4枚のカードを使用したパケットトリックで、現象は確かに不思議なのだが、単一の動きしかしないため、飽きられる可能性が高い。しかし、私はこの1年間、これを通しているし観客からの評価も高い。
実は私のジェミニストーリーの歴史はかれこれ17年になる。マジックの芸歴も17年だから、いわばマジックを始めた頃に覚えたマジックだ。それから17年間、ほぼ自分の見せる内容から姿を消すことなく、ショーの1部分を支えつづけている。無論、メインとしてだけではなく幕間をつなぐサイドの時だってあった。
私の現在のスタンスは、この「ジェミニストーリー」に集約している。それは、「演技の研磨」を具現化しているマジックだからだ。
実は私は去年1年間で、新しいマジックを1つも覚えていない。そのような機会を作らなかったわけではないが、必要も感じなかった。新しいルーティンはいくつも作成した。すでにある作品をショーで見せるように改良したものは新しいマジックとはカウントしていない。また自作したオリジナルマジックもカウント外。
今の私は、これまでに覚えてきたマジックをどこまで磨き上げられるのかという行為に非常に傾倒している。それは一線で活躍する義務も必要もないがゆえに出来る作業ではあるが、それにより結果としてプロとして活躍し得る演技力をキープしているともいえる。
ジェミニストーリーのような単一のマジックは、手元が単調故に、それ以外のすべての要素で抑揚を加えていく作業が必要になり、結果として演技力を向上を迫られるケースが多い。手元が単調だからといって、現象が単調なわけではない。見せ方やちょっとしたアイデアで、非常に面白いマジックに仕上げることができる。結果として、私は17年間を経たいまもジェミニストーリーを進化させつづけている。
話の内容やシチュエーション、ジェミニストーリーを始める前のくだり。演技の終わらせ方や、カードの配り方に持ち方。セリフの抑揚など。レギュラーショーでは、これに照明効果や、BGMの選曲に音量調整など。
すべてをいじることで、ジェミニストーリーは違う表情を覗かせる。これに観客のリアクションという常に変化する最後の素材が加わることで、100回演技したジェミニストーリーは100通りのジェミニストーリーになっていくのだ。
ここ数年、よく思うのは新しいマジックをどんどん覚える人達の現象の見新しさには新鮮さを覚えるものの、その動きの煮詰めたりない、いわゆる物足りなさに辟易とする感覚だ。漫然と同じマジックをひたすらやっているのでは意味がないが、長い時間をかけてマジックを成熟させることが、マジシャンとしての成長において重要な糧になるということは、是非考えてもらいたいものだ。