クロースアップと題したのは、わたしがクロースアップマジシャンだからだ。同じ考え方はステージにもあてはまるやもしれない。

前回の「音楽の魔性」で私が言いたいことは実は完了していたりもする。それは、

■音楽はマジックの効果を増大させるべく使うべきだ。

というものである。

今回は基礎編として、選曲の方法から考えてみたい。手っ取り早いのは私の場合だ。
我が家には洋楽、邦楽あわせて300枚程度のCDがある。このうち大半はマジックをする上での曲を探すために購入したもので、その中の大半は使われないまま、畑の肥やしになるか廃棄処分される。実際に購入した枚数は300枚では聞かないだろう。

ジャンルも海外はアーティストものから映画のサントラ、コンピュレーションアルバム、カバーアルバムなど多彩。アメリカ、イギリスに関わらずヨーロッパ音楽や東南アジア系にも手を出している。

私の場合は、選曲の基準はマジックに合うかどうかの前に、「Psyka」にあうかどうか、を重要視している。そのため、マジックが準備されていなくても選曲できるというのは大きいかもしれない。

私が曲を選ぶ時のポイントとしては
・抑揚がある
・歌詞の意味がわかるものは内容を理解しておく
・短調である(笑)
・5分前後の曲であり、途中でフェードアウトしてもおかしくない
・もしくは4分前後で最後がフェードアウトではない曲

などがある。

様々なアルバムを購入してきたが、最近多用しているのは「Cirque du soleil」のアルバムだ。ここ数年、クロースアップマジックの大会で使用している曲はすべて彼らのサントラを仕様している。

「Cirque du soleil」はカナダ・ケベック州生まれのストリートパフォーマーの集団である。日本的な見方をすればサーカスのようなものであるが、パフォーマンスグループと考えたほうがよい。40ヵ国、500名以上のアーティストによる一大グループだ。

日本では、ファシナシオン、サルティンバンコ、アレグリアなどで知られている。来年にはキダムという作品を演じる。私の指しているアルバムとは、彼らの作品のサウンドトラックのことだ。

ちなみにこのサントラは日本では発売されていない。一部レコード店で取り寄せが可能だが、てっとりばやく手に入れるには通信販売が良い。英語の通販サイトも運営されているので、興味のある方は買ってみよう。ちなみに、彼らのアルバムに関しては初期の作品はすでに絶版されていて入手できないようだ。

パフォーマンス用の音楽だけあって、パフォーマンスに向いている曲が多い。ただし、独創的な世界観を持った音楽なので、誰しもが使えるというわけではない。この辺は、自分のイメージとのすりあわせが必要になってくるだろう。私は比較的すんなり入れたのは、怪しいという点で一致していたからかもしれない。

さて

選曲だが、曲は固有の要素をいくつかもっている。それは

・歌があるか、インストロメンタルなのか
・日本語なのか、英語なのか、その他の国なのか

つまり、歌なし、歌有り(日本語)、歌有り(外国語)の3種類だ。

ここで一つ確認しておかなければならないのは、音楽はそれだけで一つの作品であるという点だ。作品には歌手、作詞者、作曲者の意図がこめられている。気持ちの込められた作品をバックに自分の作品を見せるということは、それだけで一つの戦いだということだ。

ここ数年、様々なステージマジックやクロースアップマジックを見て、常に思うことはマジシャンの演技が音楽に負けてしまっているケースが多いということだ。先般、某所で有名な日本人アーティストの曲をバックにミリオンカードを行っているマジシャンを見たが、完全に曲負けしてしまっていた。曲のイメージが強すぎて、演技のコンセプトが薄れてしまっていたのである。ぶっちゃけ、耳をふさいでマジックを見るか、目をつぶって音楽を聴いたほうが良いという状態になっていた。

曲の持つ力を感じないようにするために、日本のマジシャンが多く使用してきたのが海外の曲を使用するというものだ。これは一つの解決方法といえる。

もっと薄めるには、英語じゃない曲、もしくはインストロメンタルを選ぶということだ。これはどちらも日本人にとっては作者の意図が伝わりにくいので、マジックに対する影響が少なくなる。

しかし

もっとも優れた解決方法は、音楽に負けないしっかりとした演技を行うということだ。しっかりとしたパフォーマンスの意図と音楽が持っている雰囲気や意図がシンクロすると、これは非常に大きな効果となる。

音楽の効果により、演技の力がアップするケースが多いマジシャンとしては、私は小林恵子さんをよく挙げる。知り合いかどうかは別にして、彼女の演技は音楽に負けない力を持っている。そのため、演技の現象と音楽が勝手にシンクロして、非常に心地よい現象になることが多い。

さて、話が混ざってきた要旨を以下にまとめる。

・選曲には、マジックの為の選曲とマジシャンの為の選曲がある
・音楽は一つのエンターテイメントであるということを意識する
・音楽の持つ力を侮らない
・音楽に負けない演技をする。負けるのであれば、音楽はかけない方が望ましい

次回は、基礎編の続きとして、選曲時の注意事項を具体的にお話しよう。