若干、MOVEの章に入るべき内容だが、私の中では理論立てがかなり終わっているので、ここで取り上げさせてもらおう。

私の個人的な感覚だが、マジックにおける技術は文章で伝えきるのは難しいと思っている。どんなに名文であろうと、すぐれた解説者であろうと、元の技術が100とするとその意図は85しか伝わらないと考えている。残りの15はその文章を読んだ読者の想像力に頼る部分がある。

同じように、ビデオレクチャーにおける技術の伝達も、85とは言わないものの、95までしか伝わらないと考えている。それはビデオは一方通行のレクチャーで、本人の意図を100%伝えきるビデオは無いと考えているからだ。正確に言えば、伝える側は100を表現していても、聞く側の理解力に影響される。より100に近づけるためには、どこかに対話の場が必要である。という考えだ。

対面の技術伝承は、限りなく100に近いかもしれない。しかし、Aさんが考えた技法をBさんに伝えた段階で、そこにはBさんの思想なり考え方が多少なりとも入る以上、100の伝承は限りなく100に近いが100には成りえない。と考えている。

私は数年前、3,4年に渡ってマジックアイテムの解説書を書いていた経験をもっているのだが、その頃から、この課題を持ちつづけている。手順を伝えるのは比較的簡単だ。それは設計図であり、動きの順序を説明することに終始することで解消される。しかし技術はそう簡単にはいかないと思っていた。

技術には手順以上に、開発者の思想が含まれている。なぜそうするのか、似ていてもそれとは違う理由、考え方など言葉にすべて起こすことは、私は難しいと考えている。ケースバイケースのものもあり、その全てのケースを起こしきることは無理だろう。だから技術伝承は大きく括り「理論・概念」として伝承していく。

つまり、多少の差はあるが、技術は伝承することに本来の意味を失っていくものである、というのが私の考え方だ。つまり、100で始まったものは90になり、その90の90%になり、それの85%・・・という風に目減りしていく。

しかし、これは技術が消えていくという意味ではない。そこに新たな要素が加わる。それは伝承された人間の「理論・概念」という新しいエッセンスだ。

100から95になった技術に聞いた人間の5の考え方が加えられ、技術は再び100になる。ということである。なので、伝承を続けていっても、技術は常に100の形を保ち続けるわけである。

技術の進化はここがベースになっている。退化もまた同じである。聞いた人間がどれだけ汲み取り、そこに何を加えるか。マジックにおける技術はそれによる衰退と進化を繰り返しているような気がする。

私がレクチャーノートを書いていたときに、地方で購入された方が上京する機会があった。その際に、私は自分のレクチャーノートの中の演技を見せた事があったのだが、彼はそのマジックはノートに乗っているものと違う。と私に言った。
そんなはずは無いのだが、彼に演技を見せてもらうと、理由がわかった。それはそこに出てくる技術が同じ名前の技術なのに細部に異なるもので、結果として見栄えや動きにいくつかの違いが出たのであった。

これは技術自体の伝承の違いだ。その彼は地方で本だけで独学で覚えてきたため、過去に呼んできた本で理解した内容が自分にとっての技術の全てであった。そのため、本に書かれた意図を取りきれなかったようだ。なので個々の技術を見たときに、不自然なもの不具合の起きるものがあった。

私は、マジックにおける技術の伝承はマジック自体が抱えている大きな課題と思っている。その変化は物凄い小さいものだが、少なくとも100年前の技術と今の技術を比べると、進化・退化は別にして変化しているのは事実である。同じ技術は様々なマジシャンを通じて、理論や考え方が加えられ今に至っているのだ。

つまり伝承される側の質が仮に低下すれば、技術は衰退していく可能性を持っている。逆もまたシンなりだ。

このマジックにおける技術というのは、老舗飲食店における「秘伝のタレ」に似ている。代々引き継がれてきたタレを守る二代目、三代目というやつだ。製法を受け継がれていっても、そこにはタレのもつ歴史が必要。しかし、二代目が手を抜いたりすればパーになる。さらなる進化をさせるために、新しい事を加えれば、大成功することもあるし、やっぱりすべてパーになることもある。

重要なのは先人達の知恵が尊い物であることを理解すること。そして、それを時代に受け継げる事ができるか、という事だ。私は今を生きるマジシャン全員にその義務があるのでは、と考えている。