木 28 11月 2002
022「マジックの不思議さの不思議」によせられた掲示板の書き込みは興味深いものである。
マジック経験者が一般人の視点を失わないことは可能か、
失わないためにはどのようなことに気を付ければ良いか、
などを掘り下げてもらえるとうれしいかと存じます。
前章の焦点の一つは、まちがいなくこの話である。マジック経験者が一般人の視点を失わないことは可能か、というものである。
まず、私の考え方から述べるとするならば、この質問に関して言えば、答えは「NO」である。すなわち、マジック経験者は一般人の視点をもつことはできないというものだ。これはより詳しく書かなければ誤解されそうだが、概ね、間違っていない。問題の本質自体が「NO」でもあるのだが、これは後半で触れよう。
マジックの本質、すなわち、やり方や技術、しかけなどを知るという事は、側面から見れば、マジックを知るという事になるが、マジック全体から見れば、マジックを全て知っているという事にはならない。
私が述べる一般人の視点をもてない、という言い方は、それぞれのマジックに対するかかわり方、棺おけにどの位、足をつっこんでいるかによって、異なってくると言えるだろう。
たとえば、テンヨー社のダイナミックコインだけ買ったことがある人がいても、この人が一般的な視点ではないかというと、そうでもない。彼にとって、マジックの本質はダイナミックコインだけなのだから、その他のマジックにおいて、彼は一般人と同じ状況下にある。
ここで語るマジック経験者というのは、匙加減が微妙だ。ある程度のマジックを経験し、自分でも演技をする。特にカードマジックやコインマジックの経験者、ステージマジックなども含まれるかもしれない。手品コーナーでテンヨーのダイナミックコイン等に代表されるアイテムを購入している人は意外と含まれないケースがある。
このような人と実際にマジックを演じて、その内容に関してディスカッションをしていると、意外な共通甲にあたる。それは、マジシャンでなければ気にしない部分を気にして、マジシャンだから気にしない部分を気にしないという点だ。
具体的な例はケースバイケースなので、挙げづらいのだが、私なりの例を挙げてみよう。
例えば、テーブルにおいた、2枚のジョーカーの間に観客のカードがはさまれる事によってカード当てをする、というサンドウィッチトリックのようなものがあったとする。このマジックを語る際に、彼らは2枚のカードに観客のカードをはさまなければならない、そのムーブに関しての不自然さは細かく議論するが、テーブルに置いてある2枚のジャックをデックの上に1度載せて「あらため」をするという動作が不自然であるという議論はしない。
マジックはいくつかの技術において「必要悪」が存在している。4枚のジャックを改める際に、デックの上で行ったり、たった4枚のカードなのに広げず、1枚ずつカウントしてあらためるなど、これらはマジックにおいてだけ存在する「必要悪」といえる。
私は、これらの動作を否定しているわけではない。しかし、これらが動作において不自然な可能性を秘めている事に目を背けてはいけない、という事だ。
マジックを知るということは、このような点からしても、大きな意味で「一般者の視点」とは異なるといえるだろう。
私の挙げる「一般者の視点」とは、このように動作上不自然に思うかどうか、というポイントではないのだが、多くのマジシャンは「一般の人はそこでそういう風に動くとおかしいと感じる」という話をする。しかし、これらの大半は「そんな事を一般の人は気にしていない」というのも事実だ。
無論、全てではない。大半である。
では本来の「一般者の視点」とは何かといえば、これは大きな幻想である。というのが私の持論だ。
例えば料理を例にしてみる。どんなに優れた調理技術を知っている料理人だって、人が作った料理を食べたときに、「おいしい」と思い、感動する事がある。調理方法などを考えたり、素材のウンチクを語ることもあるかもしれないが、「おいしい」というのは、調理知識の有る無しに関わらず、共通言語であり、全ての人が持って然るべき感覚である。
マジックも同じだ。どんなに優れた技術や仕掛けを知っているマジシャンだって、他のマジシャンが見せた演技に「面白い」「不思議だ」と思い、感動する事がある。
つまり、マジックを知っている人も、知らない人も、マジックを楽しむ感性は共通なのである。知識を有している分、その楽しみ方が違う場合があったとしても、良い物を良いと感じるのは人によって変わるものではない。
すなわり、「一般者の視点」という表現は幻想の産物である。という事だ。料理人が料理できない人を指して「一般者」とは言わないように、マジシャンもマジックが出来ない人を総称して「一般の人」というのは、あまり意味を成さないのでは、と私は考えている。
つまり、最初にあった質問
マジック経験者が一般人の視点を失わないことは可能か、
に関して言えば、
マジック経験者がマジック未経験者と同じ視点を持つことは難しい。
しかし、
マジックの経験の有無に関わらず、マジックを楽しむ視点に違いはない。
という答えになる。
しかし、マジック経験者は自分の意識でこの視点を歪めているケースが多い。
それは、先ほどの技術における「必要悪」の認知や、「一般の視点」という考え方など、
様々である。
今回は「一般者の視点」の幻想を提唱してみた。
次回のTHEORYの章では、「素人」という言葉の核心に触れてみよう。